Bloody Moon

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「ドクターに感謝しなければいけないわね」 「何を?」 「貴方の瞳に捉えられる幸せを奪われなかった事」 微笑むディアナの髪を撫で、ブラッディも笑みを返した。 「そうだな…じじぃもたまには役に立つ…  ところで、今日はどんな与太話を聞かされてきたんだ?」 「また、そんな言い方をして!ドクターに失礼よ」 唇を尖らせて見せるも、その眼は笑っている。 つかず離れずの関係に見えて、その実強い絆で 結ばれている事を知っているから。 「今日はね、妖精のお話よ」 「妖精だって?随分メルヘンチックな話だな」  一体、()の面下げて… ブラッディは肩を竦めた。 「以前ある島へ立ち寄った時に、ドクターは深い森の中で  妖精を見つけたそうなの。背中に蜻蛉(かげろう)のような  羽を付けた、銀の髪の小さな小さな女の子だったんですって。  ドクターは持っていた麻袋で彼女を捕まえ、船に持ち帰り・・」 「おぃ、ちょっと待った!  俺は長年、あの老いぼれと共に旅をしてきたが  妖精なんて代物にはただの一度もお目にかかった事は無いぜ」 その言葉にディアナの眉尻が下がる。 「ドクターが云うには、妖精というのは純真な子供の心を持った  人にしか見えないのだそうよ…」 「くそじじいが」 毒づきながらも、どこか楽しそうだ。 「それで、その妖精はどうなったんだ?」 話を促しながらブラッドは一瞬、窓の外へと目を遣った。 心を陰鬱にさせる、あの月が海に溶け落ちるまで もう少し、こうして心地良い声と温もりに包まれていたい。 夜はまだ長いのだから――――― FIN 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
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