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「OKです、いただきました。お疲れ様です」
ブースの中にいた人物は、背後のコントロールルームを振り返り、艶やかな笑みを向けて頭を下げる。そして、カフをオンにして声を発した。
カフとは、自分の手元でマイクのON/OFF操作ができる箱のことだ。
「お疲れ様です。ありがとうございました」
その美声がこちらに届くやいなや、女性から悩ましげな溜息が漏れる。たぶん、彼女は彼のファンなんだろう、彩音はそう思った。
ペンと原稿を手に録音ブースから出ていこうとしている彼──白嶺彰。
彼は若手ながら、今やキャスティングするのが難しいと言われるほどの人気を誇る「ナレーター」だった。
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