as~恋に落ちる音~(1) ─惑う─

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「問題なし。ま、いつもないんだけどね」  彰が原稿を読み違えることは滅多にない。  多くの仕事を抱えているにも関わらず、事前準備はいつも完璧だ。直前の変更にも臨機応変に対応し、クライアントの満足度が高い。  だからこそ、売れっ子といえるのだろうが。  今日のクライアントは宝石を扱う商社で、エタニティリングのCMに使用する音声の収録だった。  エタニティリングは、元々は結婚記念日などに夫から妻に贈るというものだったらしいが、今では婚約指輪や結婚指輪として定番になりつつある……らしい。  という訳で、あのセリフだ。 「テレビやラジオから聞こえる声も素敵だなぁって思ってたんですが、実際に生で聞くと益々素敵でした!」  女性が興奮気味に彰に話しかける。  彰はふわりと優しく笑い、女性にありがとうございます、と頭を下げた。  女性の頬が赤く染まる。
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