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~冬のあしおと~ prologue
これは俺の今も、忘れない冬の日の話。
そしてきっと彼女もそれは同じだ。
少量の雪は美しいが、大量の雪は人間を困らせる。
そんな大量の雪を運んでくる俺は、嫌われ者だ。
けれど、この街にはただ一人。そんな俺を認めてくれる人が居た。
冬生まれで雪が大好き。俺がどんなに雪を降らせても、どんなに冷たい風を吹いても。
その女子高生だけはいつも心を躍らせていた。
女子高生の名前は卯月菜々。俺の大切な人。
けれど、俺がどんなに想っても――俺の姿は菜々には映らない。
俺の正体は冬、季節の冬だ。
誰の目にも映らず、寒さを連れてやって来る――。
雪の積もった並木道を、卯月菜々は一人で歩いていた。
高校からの帰り道。浮かない顔の菜々の足取りは重い。
今日は三月十四日、ホワイトデー。
葉の落ちた木の枝に積もった雪は、寂しげだった木々を美しい銀色に輝かせている。
立ち止まった菜々が空を見上げると、綺麗な青空が広がっていた。
辺り一面は菜々の大好きな雪で覆われているのに、彼女はいつものように心を躍らせることが出来ない。
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