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三、肖像画
この秋の間、孝は何度も彼女のもとへ足を運んだ。もう何回も、紅い葉のうえを歩いた。
落葉は茶色い土と混ざってなお紅く、まるで現実とまぼろしの橋渡しをしているかのように存在していた。
孝は彼女に、二枚の肖像画を描いてもらうことになった。彼女のほうから、二枚描くと言ってきたのだ。
「アクリルでいいよね、油彩は時間かかるから」
一枚目の絵画は、ほんの三十分で出来上がった。
彼女はほんの数秒、孝の顔を見つめると、筆を手に取り、素早い筆致で色を重ねていった。二、三回顔を上げ、孝の顔へと目を向けたが、一言も言葉を交わさずに、その時間は過ぎていった。
二枚目の絵は、孝の前では描かれなかった。
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