三、肖像画

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 彼女は初め、孝の内面を見透かすような、どこか冷たい感じのする表情をしていたが、やがて、いつもの穏やかな笑みが目立つようになり、一時間も話していると、以前には見せなかったような笑い方をするようにさえなった。  また少し時が経ち、ふたたび引き締まった表情になったかと思うと、徐々に、あるいは唐突に、幸せそうな笑みが(あふ)れだす。―― そうしているうちに、外はすっかり暗くなり、空には黄色い月が出ていた。 「遅くなっちゃったね」 「そんな、他人事みたいに。……いつ描いてくれるんです?」 「え」 「少しは見つかりました? その、僕の象徴的な……」 「あ、描くんだっけ」 「描くんですよ。って、ちょっとちょっと、忘れてたの、小萩さん?」  その夜の孝は、いつになく夢見心地だった。鏡に映った自分のふやけたような顔を見ると、よけいにふわふわと、楽しい気持ちになるのだった。  
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