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一、駅のホーム、跨線橋(こせんきょう)
風が吹き、紅葉を巻き上げた。
孝はその様子を、いつかラジオで聴いたロマンチックバレエの音楽のようだと心の内に喩えた。
重たい音がして、通過する列車がその影を掻(か)き消した。列車が去ってしまってから、それはふたたび孝の視界に帰ってくる。
向かい側のホームに人がいた。
紅葉色のコートを羽織った若い女性で、ベンチの背にもたれて煙草の煙を吐きだしていた。
唇から吐きだされた淡い煙は、渦を巻いて空気へと溶けていく。―― 自分たちを包みこむ「秋」という季節は、すべてあの煙から広がっているのではないかと孝には思えた。
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