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橋のうえの孝は、その人の隣で同じ景色を眺めていた。
淡く優しい空の下、一面に広がる紅い色彩のなかに生じた小さな茶色い線。近づくにつれてそれは大きくなり、それぞれに枕木をそなえた二つの線路の姿となり、孝の足許へと潜っていく。
今一度視線を上げると、毛布のような紅葉の筆致が孝の遠近感を狂わせ、ぼうっとした気分にさせた。
「きれいな黒髪」
声がするまで、孝はその人の手に気がつかなかった。柔らかなその感触に気づいたにしても、ただ頭のはしっこで、「秋が触れた」としか認めていなかった。
「あ……」
孝があわてて身を退くと、その人は目を細めて笑った。
二人の足許に、列車が停まった。
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