一、駅のホーム、跨線橋(こせんきょう)

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 ***  橋のうえの孝は、その人の隣で同じ景色を眺めていた。  淡く優しい空の下、一面に広がる紅い色彩のなかに生じた小さな茶色い線。近づくにつれてそれは大きくなり、それぞれに枕木(まくらぎ)をそなえた二つの線路の姿となり、孝の足許(あしもと)へと(もぐ)っていく。  今一度視線を上げると、毛布のような紅葉(こうよう)筆致(タッチ)が孝の遠近感を狂わせ、ぼうっとした気分にさせた。 「きれいな黒髪(かみ)」  声がするまで、孝はその人の手に気がつかなかった。柔らかなその感触に気づいたにしても、ただ頭のはしっこで、「秋が触れた」としか認めていなかった。 「あ……」  孝があわてて身を退()くと、その人は目を細めて笑った。  二人の足許に、列車が停まった。
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