二、並木道、アトリエ

2/4
前へ
/20ページ
次へ
 焼けつくように鮮やかな紅葉(もみじ)の葉を、涼しげな風が優しく舞いあげている。その先に建っているのが、彼女のアトリエ。そこまでの坂道は、決して長くはないのだが、隣の彼女がゆっくりと歩くので、孝も歩調を合わせて、ゆっくりと歩く。 「『葉桜(はざくら)』って、知ってる?」 「葉桜?」 「岸田國士(きしだくにお)」  彼女の横顔は少しうえを向いていて、心地よさそうに目を細めていた。 「葉桜の並木は、こうやって歩くの」  彼女は横目で孝を見ると、彼の手を握った。 「あ」 「このまま」 「……」  てのひらの温度と、()を描いて舞う葉の色が重なり、孝はふと、この人の作った(いた)めものはおいしいのだろうなと想像した。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加