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焼けつくように鮮やかな紅葉の葉を、涼しげな風が優しく舞いあげている。その先に建っているのが、彼女のアトリエ。そこまでの坂道は、決して長くはないのだが、隣の彼女がゆっくりと歩くので、孝も歩調を合わせて、ゆっくりと歩く。
「『葉桜』って、知ってる?」
「葉桜?」
「岸田國士」
彼女の横顔は少しうえを向いていて、心地よさそうに目を細めていた。
「葉桜の並木は、こうやって歩くの」
彼女は横目で孝を見ると、彼の手を握った。
「あ」
「このまま」
「……」
てのひらの温度と、弧を描いて舞う葉の色が重なり、孝はふと、この人の作った炒めものはおいしいのだろうなと想像した。
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