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それから何度か、孝は彼女のアトリエへ通った。色づいた紅葉の並木道を歩いて。
彼女が何をする人なのか、孝は知らない。絵を描くから、画家かもしれないし、歌を歌うから、歌手かもしれない。
彼女のアトリエにはクラリネットが置いてあったが、演奏しているところは見たことがなかった。それは、埃を被っているようにも見えた。
「小萩さん」
孝は彼女をそう呼んだが、彼女は孝の名前を呼ばない。
「ねえ」
ただそう言って、孝の意識が向いたのを認めると、
「どう思う?」
そんな具合に、言葉を続ける。
「きれい……。小萩さんの描く絵は、どれもきれいです」
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