第1章 出会うべき人

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 窓外の青モミジが映える五月雨。  早足で駅に向かうそれぞれの時の流れに、店内の窓際から眺めている、岩井南。  雨の中を男の子の片手には女の子を優しく包み込む傘はリズミカルに揺れる。   お洒落した三十代女性の足元はすっぽり濡れていて、見ていて気の毒になる。  店内には三人のお客。  クラッシックのBGMは外の雨をシャットアウトした穏やかな空間。  南の母、クミが経営する出入口を二つに分けたフラワーショップ「ボヌール」と喫茶店が「スペース」 趣味で資格を取った「ボヌール」は最適な勤務先である。  商店街の二泊三日の旅行でクミは南にお店を頼んで行った。  軽食をお客に出すことを考えると、自分がするしかないと思った。  当然クミには一度に2つもお仕事をするには無理がある。  やもえなく、ボヌ-ル」は教室の生徒に頼んだ。  客商売は嫌いでは無いが、そうかと言って好んでしたいとは思わない。  だが、花を扱う仕事だから出来るのだろう。  (本降りになってきたわ)  お客はサラリーマン風の男性一人だけになった。  華やいだ大勢の若い声が聞こえてきた。 「な ん ちゃん」  南の母の妹、実加の長男、幸人が男子連れの五人で店内には入ってきた。  幸人とは小さい時から何をするにも一緒で姉弟の様に育った。  実加が名前の「南」を「ナン」言った事が、今では多くの人が呼び名にしてしまった。  幸人の通う学校は県内でも有名な公立の進学校で、中高一貫校で容姿もさることながら、性格が良い実加の自慢の子である。    自分自身は・・・  顔は人目を惹くほど綺麗ではなく、そうかと言って目を覆う程不細工ではない。  程々に付いた丸味の体型に、標準的身長より幾分低めの背丈。  年齢より若く見える童顔の丸い顔に、アイプチ無用なくっきりとした二重瞼。  おばの店だと言うことも有り、幸人を初めとして、席に座るやいなや、ガヤガヤしはじめている。  独りだけ窓外を見ている少年がいた。  彩色の青モミジを優しい眼差しで見ていた。  「尚・・・どうしたんだぁ?」  「雨にモミジが似合うとおもってさぁ」  そんな会話が聞こえてきた。
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