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現実逃避をしていると、くいっとエプロンを引っ張られる。
この場所でそんなことができるのは一人しかおらず、調理を続けながら引っ張る方を見た。
やはりシンが傍に立っており、物欲しそうな顔でエプロンを掴んでいた。
「どうしたの?ご飯はまだだから、大人しく遊んでて。もう少しでできるからねー」
「まーま!まんま?」
「……そ、まんま。危ないからあっち行ってなさい」
ギュッとエプロンを掴んだまま離れようとしないシン。
仕方なく、彼に気をつけながら調理を進めていく。
言葉を覚え始めたシンはいつの間にか、アイリスのことをねーね、ミライのことをママと呼ぶようになっていた。
入れ替わったことは本人にしかわからないはずなのだが、彼は雰囲気を感じ取る能力が長けているのか、体の所有権が変わった途端呼び方を変える。
外ではそう呼ばさないように教育しなくては、と心に決め、ハンバーグを入れたフライパンに蓋をして弱火で焼いていく。
「よーし、ちょっとの間遊んでやりますか!」
嬉しそうに笑うシンを抱え上げ、おもちゃが散乱する居間に向かい、ハンバーグに火が通るまで遊んだ。
そしてその夜、ミライはフードも被らずに町を歩いていた。
目的地は決まっており、しっかりとした足取りで駐在所を目指す。
王城から派遣された兵士達が普段はそこで寝泊まりしており、用がなければ普通は近付かない場所だ。
「こんばんは、兵士さん」
扉の前に立っていた女性兵士ににっこりと微笑みながら声をかける。
子供好きなのか人当たりが良いのか、笑みを浮かべて「こんばんは」と挨拶を返してくれた。
兵士に向いてなさそうな性格だ、と思いながらも聞きたいことがあったミライには好都合な相手だろう。
「どうしたの?こんな夜遅くに子供が出歩いちゃ駄目じゃない」
「ちょっと聞きたいことがあって……。お昼から気になって気になって……これじゃあスヤスヤ眠るなんて無理よ」
顎に手を当てて少し考えたあと、扉を開けて中に招き入れる。
ミライを椅子に座らせ、食器棚から袋とティーセットを取り出してお茶を淹れ始める。
お茶を注いだカップが差し出され、女性兵士が対面に座る。
「はい、ハーブティーだよ。よく眠れるの。わざわざ王都から取り寄せてるんだ。さ、お話を聞かせてくれるかな?」
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