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空気中の水分を集め、桶に少量の水を溜める。
水の魔法が得意であればもっと多くの水が溜まるのだが、アイリスが得意とするのは風と土。
まったく使用することができない、という人が多数存在する中ではアイリスは優秀の部類だろう。
溜まった水にタオルを浸け、服を脱いでタオルを絞って染み込んだ水を抜き、体を拭き始める。
(昨日お風呂入ったのに血生臭い……まったくミライさんは……。せめて体を拭いてから寝ましょうよ)
『眠かったのよー。ていうか、ここにもお風呂場作らないとね……』
(一度体験すると……もう水浴びには戻れません。ミライさんの世界は色々あっていいですね)
まあねと苦笑気味に返事をするミライは、節度を考えなければと、自分の常識を改めていた。
ミライの普通だった生活にある物達を、アイリスの世界で再現するといずれもオーバーテクノロジーになってしまうのだ。
もっとも、ミライの世界では機械でそれらが作られていたり管理していたりしたが、当然こちらの世界には機械技術がないので模造品を作っているにすぎないが。
(よし、これでとりあえずは綺麗になったかな)
タオルを桶の中に入れ、タンスから服を出して着用していく。
先程まで着ていた服を全て桶に入れて持ち、部屋を出て一階へと向かう。
階段を下りると、椅子に座ってカウンターの上で頬杖をついて暇そうにしているユリエルと目が合った。
開店はしているはずだが、彼女の様子を見る限り閑古鳥が鳴いているようだ。
「おはよう」
「おはようございます。洗濯場を使わせていただきたいのですが、どちらでしょうか?」
「……?奥の左の扉」
「ありがとうございます」
昨晩と今朝で雰囲気や口調が違うアイリスに、首を傾げるユリエルを尻目に倉庫へ続く廊下を歩く。
先には三つの部屋があり、真ん中が倉庫への扉で、左が教えられた通り洗濯場。
では右は何の部屋だろうと疑問に思ったアイリスは、ちらりと中を覗いてみた。
木のテーブルが部屋の中央にあり、その奥に厨房が見えるため、どうやらダイニングルームのようだ。
なるほどと頷いたアイリスは扉を閉め、洗濯場に向かう。
扉の先は外と繋がっており、井戸があるタイル張りの小さな中庭となっていた。
井戸に近付き、傍にあった把っ手が長い紐で結ばれた手桶を手に取る。
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