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井戸の中に投げ入れ、水が入った手桶を紐を引いて手繰り寄せる。
部屋から持ってきた桶に水を移し、服を洗い始めた。
軽く絞って立て掛けてあった物干し竿に通し、竿掛けに乗せる。
桶の水を流し、ふうと息を吐いた。
「これでよし」
「……貴族のご令嬢が洗濯……」
「あ、ユリエルさん。お店の方は大丈夫ですか?」
「……やっぱり変」
ユリエルは雰囲気と態度が違うことに違和感を覚え、アイリスは自分の何かを疑っている彼女に疑問を持っていた。
二人揃って首を傾げていたが、なるほどと手を打ってお辞儀をする。
「初めまして、アイリス・フォーレライです。昨晩はミライさんがお世話になりました」
にこやかに挨拶するが、ユリエルの頭上に浮かぶクエスチョンマークが増えただけだった。
苦笑し、頬を掻きながら順を追って説明する。
「……というわけでして、私の体には私と、ミライさんの魂があるのです」
「納得……できないけどわかった。到底信じられないけど。それに鳥の家紋……やはり……」
「知ってるなら教えなさい。……ですって」
自分の胸元を指でトントンと叩く。
ミライの言葉を代弁したのだろうと察したユリエルは首を横に振った。
嫌でもいずれ知る、そう言い残し去って行く。
残されたアイリスは溜め息を吐き、空を見上げた。
「パパ、ママ……必ず仇は……」
『貴女はやめておきなさい。毎回私が人を殺す度に悲しそうにしてるのに、復讐なんてできないでしょ。でも思いは確かにあるから、慣れている私が代行する。……成長してから考えたら良いのよ、自分が本当に何をしたいのか。……私は、前世でも今世でも両親を失った……だから復讐する。争い事を生む全てに』
ミライの決意に、悲痛な表情を浮かべる。
彼女が見ていたならば、ほらねと呆れながら言っていただろう。
「あの二人も殺してしまうのですか?」
『……悪い人達じゃないのはわかる……何か理由があってこんなことをしているのも。でも、続けていくなら……私の敵』
それ以上言葉を交わすこともなく、アイリスは家に戻り二階に向かった。
途中ユリエルと目が合ったが特に会話も無く、会釈だけで終わった。
部屋に戻ると、隅に積まれた麻袋の前に立つ。
よしと頷いて風を操り、麻袋を二つほど浮かせ厨房に向かった。
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