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微かだが、誰かが自分の名を呼ぶ声がした。
優しく呼びかけてくる、女性と男性の声。
だが、体が思うように動かず、未来はただ地面をぼうっと見つめていた。
硝煙や何かが焼けたような匂いなど、様々な死の香りが漂うこのような場所で、優しい声がするはずもない。
視界が霞み、目の前が真っ暗になっていく。
ーー……らい……。……み……ーー
また名前を呼ばれる。
懐かしい、両親の声で。
「未来。これからはパパ達だけでなく、こいつもお前を守ってくれる」
真っ暗な視界が晴れ、安堵している父の顔が現れる。
キョロキョロと見回すと、背後にある浮遊している巨大なハート型の機械が目に入った。
その形は歪で、何本もの管のような物が刺さっている。
「アンチグラヴィティシステム正常に稼働。トランスシステム、メタモルフォーゼ魔法……数値に異常なし。反発作用も見当たりません。成功です!」
白衣を着た数人の男女がコンピュータと向き合い、嬉しそうな声色で報告していく。
「反重力装置搭載、単独決戦用守護兵器……。ついに完成したわね。決戦なのか守護なのか、矛盾した名前だけれど。……どう?未来。体におかしいところはない?認証システムを貴女の魂に刻み込んだのだから、違和感はあるかもしれないけど……」
思っただけで左右に動く機械のハートをじっと見つめて首を振る。
魂と呼ばれるものに刻まれただけあって、念じるよりも早く行動を起こすそれは、初めから体の一部だったのでは、と錯覚させるほどだ。
「いいかい、未来。これはお前を守るために作ったものだ。例え戦争になったとしても、こいつが守ってくれる。そんな状況にならないことが一番なんだが……最近の動きが怪しいからな……」
「魔法と科学の結晶であるこれは戦争を招くかもしれないけど……未来さえ生きていてくれれば……」
暗い顔を見せる二人に、ドンと胸を叩いて笑顔を作り、大丈夫と笑う。
「パパもママも守ってあげる!パパとママが作ってくれたこのムジュンで!」
「……はは、嬉しいな。そうか、守ってくれるか。ははは」
「ムジュン、ね。ネーミングセンスは誰に似たんだか」
肩を竦める母や、頭を撫でてくる父。
部屋に明るい雰囲気が戻ってきたのだった。
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