プロローグ

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「よくも……よくもママを殺したな……」 俯きながらゆっくりと立ち上がり、普段からは想像できない低い声色で呟き、歯茎から血が出るほど強く食い縛る。 「絶対に許さない……全員……皆殺しだ!」 怒気と殺気を放ちながら、たった一つ名前を叫ぶ。 「『ムジュン』!」 その声に反応し、一瞬にも思える速度で壁から細長い棘が伸び、男達の腕や足を貫いていく。 頭部や心臓などはわざと外されており、壁に穴が空き、そこから出てきた彼女がそれを見て鼻で笑う。 「すぐに死ぬと思った?ママを殺しておいて、楽に死ねると思わないで。じわじわと死んでいけ」 ちらりとベッドの方を見るとリリアだけでなく、ウェインも刃物によって事切れていることを知り、ギリギリと歯軋りしながら背を向ける。 「ムジュン、この家を燃やす前に金品を回収しよう。それでしばらくは安全に隠れられる」 棘を戻した後、一メートルサイズのハート型になった土で構成されたムジュンは背後に浮遊しながら留まった。 「馬鹿な……こん、な魔法は……アイリス嬢、には……」 「そりゃムジュンは私の相棒だもの。この体の子には使えなくて当然。それに、私はアイリスじゃなくて、ミライ。……まあ、そっちは覚えることはできなくても、こっちはその蠍の刺青の盗賊と、鳥の紋章の鎧を覚えたから。……必ず滅ぼしてやる」 吐き捨てるように恨み言を言い放ち、そのまま倉庫に向かう。 倉庫に辿り着くと、ムジュンが大きく広がり、中にある物全てを包み込んだ。 目的を果たしたミライは呪文を唱え、指先に小さな火を出現させ、床に落とす。 絨毯や壁に広がっていく火を背に、玄関へ向かい一度振り返ってから外に出た。 「さようなら、二番目のパパとママ……。アイリス(わたし)とこの子は絶対に守るから……また来世で会ってあげてね」 シンを抱く手に力を込め、今世の決意を胸に、闇夜に姿を消すのだった。
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