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一貴族の家が全焼した事件も一年経つ頃には話題になることも少なくなる。
山を一つ跨いだ所にある町でもそれは変わらない。
例え、死んだと言われているアイリス本人がフードを被って買い物をしていても気が付かない。
「おっとと……」
「メモに書いてあるのは全部だな。お嬢ちゃん大丈夫かい?」
「はい、大丈夫です!失礼します!」
頭を下げ、風魔法を使って三つの紙袋を浮かせ早足に去る。
三つ同時に支え続けるコントロール技術は、アイリスのような年頃では難しく、顔には大量の汗が浮かんでは滴り落ちていた。
そのまま町を出て山の方に歩いて行くと、上手く土色にカモフラージュされている小さな穴に入る。
中は広い空洞となっており、山の中なのに家具はほとんど揃っており、キッチンや冷蔵庫も置いてあった。
「ねーね!」
「シン君、ただいま」
紙袋をテーブルの上に降ろし、よたよたと歩いて来るシンの頭を撫でる。
「ちょっと待っててねー、全部れーぞーこ?に入れてからねー」
紙袋の中身をテーブルに並べ、綺麗に冷蔵庫や冷凍庫にしまっていく。
『貴女、本当に七歳なの?私が同じくらいの時はそんなじゃなかったけど』
「シン君は私しかいないですから。私がしっかりしないといけませんし、パパやママの代わりに育ててあげないと……って思ってます」
アイリスにしか聞こえない声に、動じることなく微笑みながら返事をする。
誰かから見れば独り言だが、一つの体に二つの魂があるアイリスからしてみれば、ただ会話をしているだけなのだ。
家を焼いた次の日、アイリスが目覚めると町から外れた林の中にいた。
わけもわからず混乱しているとミライが語りかけ、それから彼女の指示通りに生活し始めて一年が過ぎた。
初めは疑心暗鬼だったが、今では大事な家族であり、アイリスは密かに第二の母と思っている。
「しかし凄いですね、ミライさんの世界の技術は。いつまでもひんやりしたまま食べ物を置いておけるなんて」
『逆に無くて驚いてるわよ。内包された魔力が尽きない限り冷気を出し続けるアイシーク石なんてのがあるのに、食材の保存方法がないなんて。二日に一回魔力を込めるだけでいいのに……』
「うーん……王都の方ならホゾン?する方法があるかも?」
冷蔵庫の中身を見ながら、今日使用する食材を取り出していく。
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