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キッチンに食材を並べ終えると目を閉じ、体の所有権をアイリスからミライへ変更する。
いつもならムジュンが背後に現れるが、この中で出て来られると天井が崩れてしまったり家具が駄目になってしまう可能性があるため、壁や床等と一体化しているのである。
「よし。最近シンが離乳食を離れたからちょっと豪勢な物を作ろうかな。……と言っても、これが好物になるかもしれないしなぁ……」
体は七歳のアイリスのものなので、元十六歳のミライがエプロンを着けて腕を組んで悩む姿は、ままごとにしか見えないのだが、本人は至って真剣だ。
「うん、ハンバーグかな、無難に。あとは、明日のおやつにパンケーキ作るから、そっちの準備も……。いやあ、色んな飲食店でバイトした経験が活きるわぁ」
『ミライさんのご飯はいつも美味しいから楽しみです!』
「やめてよー。味は普通だって。レシピ通りに作ったら誰でも出来る味だからさー」
否定しつつも、ボウルの中の挽肉をこねるミライの顔は照れくさそうににやけていた。
だが突然真剣な表情になり、アイリスの中にいながら見ていた町の様子を思い出す。
「この町もそろそろ離れなきゃいけないかもしれない。町の兵士以外の兵士がいたし」
『これで三回目ですね。お家近くの町はほとんど兵士さんが聞いて回ってると思っても良さそうです』
「……貴女、本当に七歳?」
『レディに年齢を聞くのは失礼ですよ。そう言うミライさんだって、私が産まれてからの年数を足したら、にじゅうさ……』
いつの間に成人を果たしていた事実に少し目が潤み、それを察したアイリスは憐れんで言葉を噤む。
悲劇の結末を迎えることになる二年ほど前は普通の生活を送っており、友達と大人になった時の想像を語り合ったこともあった。
晴れ着を纏って迎える成人式を楽しみにしていたミライは、参加できずに二十歳を超えたのが少なからずショックだったのだ。
「行きたかったなぁ……成人式。振袖着て、そのままご飯行って……はぁ……」
(うーん……これは駄目な話題だったかな?今後は避けよう……)
「……いや、まだ私は十六歳……精神体みたいなものだから、永遠の十六歳と言っても過言ではない!よし!いける!」
(あ、本当に駄目だ。何かわからないけど、今のミライさんはすごく駄目な人な気がする)
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