1.

3/9
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
 幼少のころから(といっても今も小学生なのだから十分幼少なのだが)転入、転校を繰り返してきた私にとって、身の回りを極力質素に保つ事は必須条件だった。  断捨離などと言う言葉を知る前から、私にとってそれは至極自然のことであり、着る事が無くなった服、読み終わった本、年齢にそぐわない玩具、それらすべて当たり前のように捨ててきた。  だから時間を掛けて丁寧に編みあげてくれたであろうこのマフラーも、趣味では無いため、申し訳ないがゴミ袋へと移ってもらう。  貰ったプレゼントは、どうやら全て廃棄することになりそうだ。  プレゼントを入れた紙袋の底で、黒色の封筒を見つける。  ここの地域で流行っているらしい、黒い封筒に黒い便箋。すべてが真っ黒という訳では無く、白字で蝶の羽の模様が描かれている。  蝶は好きだ。黒地の封筒に留まった真っ白な羽は美しく軽やかで、今にもふわりと飛び立っていくよう。  これに専用の白のボールペンで記載する。   記された下手くそな文字が無ければ、なお良かったのに。  これはK君からの手紙。  クラスの人気者のK君。  有名サッカーチームのジュニアに所属し、持ち前の不細工な顔をものともせず、クラスの女子人気No.1のK君。  そのK君が私に宛てた、流行の便箋にて認したためたこの手紙。気のりはしないが封を開けることにする。  きっとこの前の告白の返事が書いてあるのだろう。  3日前にクラス全員の前で決行した、人生初の告白。 「あなたが好きです」  そっち方面に疎い私が、まさかこの弱年齢でこのセリフを『吐く』とは、夢にも思わなかった。  文字通り、今思い出しても『吐き気』がする。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!