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とは言え、愛の告白に対して、返事が記されたこの手紙。
そう考えると、いくら私でも鼓動が速くなり、胸がドキドキして来た。
封筒を丁寧に開封し、中の便箋をそっと覗き込む。黒地の便箋に書かれた白色の文字は、ふわりと浮きあがるように見え、文字全体がまるで絵のように錯覚する。
これだけ汚い字にも拘わらずだ。
便箋の間に、紫苑しおんの押し花が添えられていた。やるじゃないか、K君。これは高得点だ。
紫苑の花。確か花言葉は・・・。
―――――
私 様
名なしで貰った手紙を読んだ時、僕はどんな子からの手紙だろうかと僕はドキドキしていました。
教室でみんなが見ている中、君が堂々と名乗り出て、僕の事を好きだと言ってくれた事、
僕は恥ずかしくもあったのだけど、僕は本当はうれしく・・・
――――――
ビシャリ。
3行目で耐えきれず真二つに破り捨ててしまった。
何回僕って言うんだ、あんたは。本当に自分大好きだな。
頼まれたとはいえ、人生の汚点である事を、彼の手紙により再確認できた私は、証拠隠滅とばかりに、ビリビリと何度も念入りに破り捨てる。
細かくなった便箋と封筒を、胡蝶のようにパッと舞わせおうかとも思ったのが、それでは掃除が大変なので思いとどまり、そのままこれも、そっとゴミ袋の中へと捨てた。
紫苑の押し花、これだけは必要になるかも。ポケットの中に仕舞いこむ。
後は、この色紙か。
みんなからの寄せ書きが認したためられた色紙。一言ずつ私に宛てた言葉が綴られている。
――向こうに行っても、私のこと忘れないでね!――
ごめんなさい、どちらさまでしたっけ。
忘れる前に、覚えてないのだけど・・・。
――落ち着いたら、クラスに手紙下さいね――
その手紙って、教室に延々と貼り出されたりするの?
とてもとても嫌なのだけど。
――さよならは言わないぜ!――
あ、K君だ。
さようなら、K君。
別に私が冷めている訳ではないさ。
皆が酔っているのだ。
なにせ、ここに滞在したのはわずか3カ月。
碌な思い出も無いくせに、転校と言うイベントに酔いしれ、お別れ会では泣きだすものも多数いた。
私がいなくなっても、3か月前の日常に戻るだけ。どうせ同じく3ヶ月後には、私のことなんて、みんなすっかりさっぱり忘れるに決まってる。
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