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K君にしたってそうだ。いや、こいつが一番酔っぱらってる。
転校する少女からの愛の告白。さぞや心地よく酔いしれている事だろう。
後腐れも無く、心おきなくロマンスに浸れると言うものだ。
決めた。
どうせ向こうで捨てるか、こっちで捨てるかの違いだ。
この色紙も、今ここで捨ててしまおう。
二つに折ろうとするも、厚手の型紙はなかなかしぶとい。
仕方なく膝をあて、無理やり折った。そのまま足で踏みつぶし、体重に任せて折りたたむ。
こういった作業をする時、足元が見えにくいスカートは地味にイラッとする。
そもそも引っ越し当日など汗をかく作業が続くのだから、なるべくラフな格好でいたいのだけど、新転地での第一印象を気にする母親がそれを許さず、数少ない余所行きの服の中から、一番上等な桜色のワンピースを着せられた。
とてもとても気にいっているのに、汚したらどうするのだ、まったく。
誰が見ているわけでもない、スカートを太もも近くまで捲り上げ、色紙をゲシゲシと踏みならす。
かさばらぬように、せめて4つ折りになるように、
ゲシゲシ、ゲシゲシと。
「なんて格好しているの。あんたは・・・」
開けっぱなしにしていたドアの前で、あきれ顔の母親が声を掛けてきた。
母だけでは無かった。母親の影に隠れる様に、件のYちゃんもこちらを見やる。
「お友達が来てくれたよ。
まだ少し時間あるから、ゆっくりお話してていいよ」
いつもなら、はしたない格好を真っ先に咎める母親が、気味が悪いほどやさしい口調で私に言う。
うれしいのだろう。何度目かの引っ越しで、初めて旅立ちを見送りに来た、娘の友人の来訪が。
ごめんね、母さん。Yちゃんはそう言うのじゃないよ。
どちらかと言うと真逆。
私を除けば、彼女だけが唯一、これっぽっちも酔っていない。
捲ったスカートを元に戻し、皺が出来ぬようにパンパンと手で払い、形を整える。
「ベティ、持ってきた?」
私の問いに対し、返事の代わりに、恐る恐る紙袋を差し出すYちゃん。
表情が曇っていて、今にも泣きそう。母親が勘違いするのも無理は無い。
彼女が別れを惜しむ相手は、私ではないのだけど。
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