1.

6/9

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
「少し、歩こうか」  家を飛び出し、近くの小高い丘の上の展望台を目指す。  移動中は一言も口を開かず、私の後ろをオズオズと歩みながら、大事そうに両手で紙袋を抱きかかえるYちゃん。 ―チチッ、チチッ、チチッ― ―フィー、フィー、フィー―  どこかでセッカの鳴き声がした。  チチッ、チチッで下降し、フィー、フィーで上昇する。  見た目は地味な鳥だが、愛くるしい鳴き声が好きだ。 「チチッ、チチッ、チチッ。 フィー、フィー、フィー」  どうせ別れを惜しんで、2人思い出話に花を咲かせる事は無いのだ。  手持無沙汰の道のりを、セッカの鳴き声を真似て歩む。 「チチッ、チチッ、チチッ。 フィー、フィー、フィー」  チチッ、チチッで下降し、フィー、フィーで上昇する。  見た目は地味な鳥だが、どこにでもいるのが好きだ。  そうしているうちに、丘の展望台へと到着する。  振りかえりながら右手を差し出し、催促する。 「じゃあ、約束通り貰おうかな」  私の発したその言葉に、いよいよ大粒の涙を流し始める彼女。  事の発端は4日前まで遡る。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加