2人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
「少し、歩こうか」
家を飛び出し、近くの小高い丘の上の展望台を目指す。
移動中は一言も口を開かず、私の後ろをオズオズと歩みながら、大事そうに両手で紙袋を抱きかかえるYちゃん。
―チチッ、チチッ、チチッ―
―フィー、フィー、フィー―
どこかでセッカの鳴き声がした。
チチッ、チチッで下降し、フィー、フィーで上昇する。
見た目は地味な鳥だが、愛くるしい鳴き声が好きだ。
「チチッ、チチッ、チチッ。
フィー、フィー、フィー」
どうせ別れを惜しんで、2人思い出話に花を咲かせる事は無いのだ。
手持無沙汰の道のりを、セッカの鳴き声を真似て歩む。
「チチッ、チチッ、チチッ。
フィー、フィー、フィー」
チチッ、チチッで下降し、フィー、フィーで上昇する。
見た目は地味な鳥だが、どこにでもいるのが好きだ。
そうしているうちに、丘の展望台へと到着する。
振りかえりながら右手を差し出し、催促する。
「じゃあ、約束通り貰おうかな」
私の発したその言葉に、いよいよ大粒の涙を流し始める彼女。
事の発端は4日前まで遡る。
最初のコメントを投稿しよう!