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クラスで、ちょっとした事件が話題となった。
人気者のK君に宛てられた、差出人不明のラブレター。
持ち主の机の中に、ひっそりと置かれていた。
K君本人が周りに自慢した事から、名無しのラブレターの話題は、クラスの中で一気に膨れ上がった。 終いには筆跡鑑定のまねごとまで始め、似た文字を書くYちゃんが真っ先に疑われていた。
疑惑は正解だった。
すでに転校の旨をクラス全員に伝えていた私のところに、Yちゃんが相談しに来た。
いや、相談では無いな。身代わりを要求してきたのだ。
家を訪ねてきた彼女と散歩をし、あの日もちょうどこの丘で、同じように彼女は大粒の涙を流した。
泣きながら彼女は語った。
思いを伝えたくてラブレターを認ためたが、いざ名乗りを上げようとすると勇気が出なかった。
そのまま仕舞いこむには忍びなく、名前の無い手紙を彼に出してしまった。
それがかえって彼らの好奇心をくすぐり、最悪の形で気持ちを暴露することに成りつつあると。
「私ちゃんは、いいでしょ?
もうここには居なくなるんだから」
ひどい言い草だ。私の気持ちなんて、なにも判らないくせに。
「ただでとは言わないわ。
お気に入りだけど、この子を上げる。
買ってもらったばかりの茶色のテディベア。
前にかわいいって言ってたよね?」
うん、確かに言った。
一度だけ、彼女の家にお呼ばれした事がある。
3か月前、転入生を歓迎する意味合いで招かれた、気まぐれの集い。
彼女の部屋は、ぬいぐるみで溢れていた。
中でも愛くるしい熊のぬいぐるみが目立った。転居を想定していない大きなベッドの上に、所狭しと並べられたぬいぐるみ。彼女はぬいぐるみの事と勘違いしたようだが、私がかわいいと言ったのは、あなたの事だ。
ぬいぐるみに見守られ、ぬいぐるみを抱きながら夢へと落ちるであろう、あなたの事だ。
「代わりに手紙の主だと、名乗りを上げればいいのね。
いいよ、やってあげる。
ただし、欲しいのはその子じゃない」
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