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そして現在へと至る。
泣き続ければ何とかなると思う彼女に、もう一度催促する。すると水膜を張った目で、あの日と同じように嘆願してきた。
「ねぇ、お願い。
この子じゃ駄目かな?
ベティはね、私の初めてのぬいぐるみで、一番のお友達なの」
私が条件として要求したのは、ベティと名付けられた白色のテディベア。
もともとは白色、と言うべきだろうか。
ところどころ黄ばんだ下地、ほつれては直したであろう裁縫の跡が目立つ右眼。
それでも大切にされてきた事が一目で判る、ブラッシングされた綺麗な毛並み。
「ほら、この子は毎日抱いて寝ているもんだから、顔なんて私の涎まみれだし、旅行にも欠かさず持ち歩くから、落としきれなかったいろんな汚れがあるの。
絶対に新しい茶色の子のほうが、あなたには価値がある。
この子のほうが、ずっと、ずっと・・・」
泣きながら最後の嘆願をする彼女に対し、優しく諭すように死刑を宣告する。
私が欲しいのは、茶でも白でも無い。ベティなのだと。
やがて彼女はすべてを諦め、紙袋から白い熊、ベティを取りだした。
「大切に・・・、大切にしてね」
おかしなことを言う。
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