1.

9/9
前へ
/9ページ
次へ
 貰ってしまえば、『これ』をどうしようが、私の勝手の筈だ。  もう対価は払ったのだから。  彼女に見せびらかすようにギュッと抱きしめ、茶色の右眼をゆっくりと手でなぞると、そのまま力任せに、右眼を引きちぎって見せた。 「きゃああああああああああ!」  絶叫と共に、Yちゃんが乱暴に私からぬいぐるみを取り上げた。  まるで母親が子を庇うように、ベティを抱きかかえながら身をまるくして、そしてまた泣き続ける。  いいよ、『それ』は返してあげる。  私はこれで十分。    ベティの右眼を太陽にかざす。  半透明のプラスチックでできた、安物の右眼。  とてもとても綺麗だ。  「ベティの右眼、大切にするね。 さようなら、Yちゃん」  未だ泣きやまぬ彼女に、ポケットから取り出した紫苑の押し花を差し出す。  困惑する彼女に、そっと握らせた。  何一つ思い出の無い街だけど、ようやく一つだけ傷を残せた。   優しい記憶も、悲痛な叫びも、等しく傷には違いない。   宝石箱に仕舞いこむ、たった一つの宝物。   願わくは、彼女も私の思い出を。   紫苑の花ことばは、 「あなたを決して忘れない」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加