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貰ってしまえば、『これ』をどうしようが、私の勝手の筈だ。
もう対価は払ったのだから。
彼女に見せびらかすようにギュッと抱きしめ、茶色の右眼をゆっくりと手でなぞると、そのまま力任せに、右眼を引きちぎって見せた。
「きゃああああああああああ!」
絶叫と共に、Yちゃんが乱暴に私からぬいぐるみを取り上げた。
まるで母親が子を庇うように、ベティを抱きかかえながら身をまるくして、そしてまた泣き続ける。
いいよ、『それ』は返してあげる。
私はこれで十分。
ベティの右眼を太陽にかざす。
半透明のプラスチックでできた、安物の右眼。
とてもとても綺麗だ。
「ベティの右眼、大切にするね。
さようなら、Yちゃん」
未だ泣きやまぬ彼女に、ポケットから取り出した紫苑の押し花を差し出す。
困惑する彼女に、そっと握らせた。
何一つ思い出の無い街だけど、ようやく一つだけ傷を残せた。
優しい記憶も、悲痛な叫びも、等しく傷には違いない。
宝石箱に仕舞いこむ、たった一つの宝物。
願わくは、彼女も私の思い出を。
紫苑の花ことばは、
「あなたを決して忘れない」
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