干支の13

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ある男が夜の峠道を次の町へと急いでいた。左手に松明を持っていて周囲は明るかったが、鬱蒼と茂った木々が夜の峠道を不気味に彩っていた。男は山賊であったが徒党は組まず常に一人で行動している一匹狼であった。そして男の前には昼間にふもとの町で攫ってきた娘を歩かせている。娘は両手は枷で繋がれていて、虚ろな目をして下を向き黙って歩いていた。もう家族の元に帰ることは叶わないと逃げる事を諦めているのであった。何故なら、この男の話しはこの界隈では有名で“町に紛れ込んだ山賊が若い娘を誘拐して売り飛ばす”と言う事件が頻発していて、まさか自分がその山賊に捕まるとは夢にも思ってもいなかったし、男には全く油断が無くてギラギラした覇気を放っていて、到底逃げ切れないと悟ってしまったのであった。 娘は村から一人で町に買い出しに出ていたところを白昼堂々と捕まった。男は娘を無理やり路地裏に引き込み連れ去ったのだが、それは男のいつもの手口で熟練の早業で身動きを封じ抱え上げて瞬く間にその場から逃げ去るのだ。娘はその早業に何の抵抗も出来ずに攫われた。犯行の瞬間をまれに第三者に目撃される事があったが男にとってそれは全く問題では無かった。現に今日も数名にその瞬間を目撃されていたのだが、目撃者が呆気にとられているうちにさっさとその場から逃げおおせたのだ。男は今まで二十回以上もこの手口で犯行を繰り返して来たが一度も失敗した事は無かった。男は峠を越えた町で娘を売り飛ばすつもりであった。誘拐した娘を縄で繋いで拘束し無いのはその縄での反撃や自傷行為を防止する為で、娘に先頭を歩かせるのは娘を逃さないように見張っているのだ。     
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