干支の13

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数日経ったある日、村に何やら悶え苦しむようなうめき声が響き渡った。そのうめき声はあの生物の声で寝ぐらの山から聞こえて来た。村人数人で恐る恐る山を見に行ってみるとイバラの藪の中で体毛が引っかかり動けなくなっているあの生物を発見したのであった。村人たちは急いで巨大な釜や剪定ハサミを持ち寄って藪に集まった。そして全く身動きの取れなくなった生物の背中に飛び乗って体毛を少しづつ切り開いていったのである。体毛はかなり密集していて硬く詰まっていたが、ほぐすとふわふわで上質な羊毛である事が判明した。一mほど切り開いたところでようやく皮膚に辿り着き、そこからは体の形に沿って体毛を丁寧に切っていった。一時間ほどで毛は刈り終わるとそこには三年前に行方不明になってもう野生の猛獣に食われてしまったと思われていた小さな羊が現れた。 畑を荒らし、猟犬を蹴散らしてライフルの弾さえも効かなかったあの生物の正体は毛を三年間も刈らずにいた羊だったのである。すっかり毛を刈られた羊はビクビクしていてブルブルと震えながらクシャミを繰り返している。羊はあの生物だった頃の威勢は影を潜め、大人しく温厚で見違えるほど小さくなっていた。そして羊から採れた三年分の上質な羊毛は人々の生活を少し豊にしたのであった。 9.利巧な珍味     
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