干支の13

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三月の最終の日曜日、この日は昨晩から降り続いた雪が十センチほど積もっていた。昼過ぎになると一人の少女がこの地方では滅多に降らないこの雪の中で無邪気に遊んでいた。お父さんは単身赴任で働いており、年に数日しか一緒に居られなかった。お母さんは昼から仕事に出ていて少女は一人でお留守番をしているのだった。少女は雪の降り積もる庭を走り回ったり雪を投げたりしてはしゃいでいた。そして雪を丸め固めて一羽の兎を作った。それは固めた雪に赤い木の実の目を付けて、木の葉を耳に見立てた二十センチくらいの小さな兎だった。そして少女はその雪でできた兎に話しかけた。「ウサギちゃん、一緒に遊びましょう。」少女は兎を持って庭や家の周りを案内し始めた。「ここはお庭の門よ。みんなここを通ってお庭に入ったり出たりするの。あたしが一人でお留守番している時はこの門から外に出ちゃいけないの。お父さんとお母さんとの大切な約束なのよ。」すると 雪の兎が少し動いた気がした。少女は不思議に思ったが、そのまま案内を続けた。「ここは玄関よ。みんなここから家の中に入るわ。お父さんが帰って来るときにここでみんなで出迎えるのよ。」案内が終わると不思議なことがおきた。雪の兎はお礼を言って動き出したのだ。「ありがとう、僕を作ってくれて。僕に色々と教えてくれて。」少女はとても驚いたが、すぐに受け入れた。「あたしウサギちゃん好きなの!ずっと飼いたいと思ってたのよ。あたしとあなたはお友達よ。」そう言うと少女は雪の兎と庭いっぱいに走りまわったり、転がったりして一緒に遊んだ。しばらく遊びまわった少女は疲れてウトウトして目をこすり始めた。「こんな所で寝ちゃダメだよ。家の中に入ろうよ。」「うん、そうする。」二人は家の中に入った。家の中は暖炉があり、火が灯されていたのでとても暖かかった。少女は暖炉の前でスヤスヤと眠り始めた。     
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