干支の13

8/28
前へ
/28ページ
次へ
少女は手が濡れる感覚で目を覚ました。それは雪の兎が溶けた水だった。もう半分くらいの大きさになった兎を見て少女は涙ぐみながら話しかけた。「ウサぎちゃん溶けて無くなっちゃうよ…」「また会えるから大丈夫だよ。もう泣かないで。僕は雪だからいずれは溶けて無くなってしまうんだ。溶けてしまうまでにルリちゃんと出会えて、お喋りできて楽しかったよ。」少女はただ泣き尽くすだけだった。 夕方、仕事を終えたお母さんが帰って来た時には雪で出来た兎はもう水になっていた。少女は泣きながらお母さんに飛びついた。「あらあら、どうしたの?一人でちゃんとお留守番出来てたじゃない。」お母さんは左手で少女を抱き寄せた。そして、その右の手には雪のように白い一羽の子ウサギが抱き抱えられていた。 5.赤の世界 男は意識を取り戻した。周りを見渡すとそこは一面赤褐色の大地が広がっていて草木は生えておらず石岩も無く、柔らかな地面が広がっているだけで、男以外に他の生物は見当たらない。男は気を失う前に山岳地帯を逃げていた。そして断崖絶壁に追い詰められて決死の覚悟で飛び降りたのだった。ここは男が気を失う前にいた亜熱帯気候の乾燥地域とは明らかに違っていて、地面は湿っていて湿度は高く、空気がどこか酸性をおびていて気管支にヒリヒリとしみるのだった。そして空は薄暗く朱色に染まっていて雲は無く陽も出ていなかった。ここは見渡す限りの赤の世界であった。     
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加