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「写真でもなければ、人とそれ以外の区別が付かないほど愚かじゃないぞ」
「区別ですか。それはそんなに重要なことですか?」
「空っぽの木偶を撃ち殺したところでなんの意味がある。血と肉に基づいた人間でなければ、意味がない。意味のあるものを相手にしなければ、俺のやっていることも無意味になってしまう。問題を起こすのはいつだって人間だ。人形じゃない。アンドロイドが起こす問題はヒューマンエラーが元にあるしな」
「意味が欲しいのですか? でしたら、今回の依頼をした理由をお話しましょうか」
「普段ならクライアントの事情には踏み込まない。余計なことは知らないほうが都合がいいからな。だが、今回は別だ」
男は椅子に深々と座り、女の目をじっと見た。
「聞かせてもらおうじゃないか」
「そうですね。強いて言うならば……私が破壊を望んだからでしょうか」
「言っている意味が分からない」
「言葉通りですよ。あるいは、彼女が破壊されることを望んだからでしょう」
「どういうことだ」
「彼女は抵抗しましたか?」
男は思い返す。標的の顔。家に侵入した自分を見返す彼女の表情。まるで、いま目の前にいるこの女のように無表情だった。見つかったときは自分の迂闊さに内心で舌打ちをし、予想されうる彼女の抵抗に身構えた。だが、取り乱さず、警察に通報することもなかった。大抵のアンドロイドはネットに常時繋がっており、必要とあらば即座に通報することもできただろうに。
「いや」
「そういうことです。それがすべてですよ」
「アンドロイドが死にたがってたっていうのか? 介護疲れでもあったと?」
「あるいは、そうかもしれません」
「馬鹿馬鹿しい……」
「ええ、馬鹿馬鹿しいですね。とにかく、彼女が破壊されるに至る要因が揃った。それが意味といえば意味であり、理由といえば理由になります」
「訳がわからない。曖昧にすぎる。無茶苦茶じゃないか。くそっ」
拳を強く握りしめる。物理現実と変わらず、爪が肉に食い込む確かな感触があった。
「わからないといえば、俺を追ってきたあいつらはなんだ? 介護用アンドロイドを一体壊しただけで、なぜあそこまで追いすがってくる。なんの関係があるんだ? あいつらもアンドロイドのようだったが」
「誰かを殺せば、追われるのは必然でしょう? そういうものだから、彼らは追うのです」
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