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「……待て」  男は女を睨みつけた。腹の底から、不審と、怒りになる前の混沌とした感情の元が煮えたぎってくる。 「まさか、あれはお前が仕組んだものか?」 「そうと言えば、そうです。そうでないとも言えますけれど」 「もうたくさんだ!」  椅子を蹴って男は立ち上がり、テーブルに身を乗り出して女に顔を寄せた。 「なぜあんなことをさせた? なぜこんなことをする!」  女は表情も姿勢も変えないままに、ほんのわずかに顔を上げて男に問いかけた。 「あなたは、なぜ、人を殺すのですか?」 「金のためだ」  吐き捨てるように男は答えた。 「お金を得るためだけなら、殺し屋である必要はないでしょう? 先ほど言っていましたね。人間を相手にしなければ意味がないと。自分のしていることに意味が欲しいからですか? 人を殺さなければ――意味と相対してそれに向き合わないと、自分自身が意味をなさないと思っているの? 自分の外にある意味を破壊することが、あなたに意味を与えると?」 「そうだよ! 人間は意味によってできている。人と人が向き合うことは、互いの意味を確かめ合ったり、ひとつに結んだり、作ったり、壊しあったりすることだ。意味を求めてなにが悪い!」 「悪くはありませんよ。でも、人間は意味によってできているわけではありません。ただ空っぽなだけです」 「なんだと……」 「人間に限りません。身の回りにあるものをよくご覧なさい。そのどこに『意味』がありますか? そこにあるのは、ただの物質と仕組みです。意味など、頭の中に浮かぶ幻像に過ぎませんよ。例えば、神と同じです」 「幻像だと? ここがまさにそうだろう!」  男は激昂してティーセットを乱暴に払い除けた。陶器製として設定されたカップやポットがテーブルから落ち、白石にぶつかって派手に割れる。こぼれたお茶が男の手を濡らし、熱をはっきりと感じた。 「物理現実には意味があるが、ここはただのまやかしだ!」 「なにが違いますか?」  女は涼しい顔で男を静かに見つめている。
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