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『始まり』
大学を早めに出たので、その分、早くバイト先についてしまった。
タイムカードを押し、休憩室のソファーにもたれかかり一息つく。
辺りを見渡すとちょうど休憩時間中なのか、おばさん達のおしゃべりで賑わっている。
僕は小さな会社の事務処理・雑用のバイトをしている。学生の割には時給がいいし、主に室内でのデスクワークなので夏は涼しく冬は暖かいという好条件だ。
「今から?」
不意に話しかけられ、びっくりして振り向くとそこには義弘がいた。義弘は社内の数少ない年の近い友達だ。
「あ、今から、今から。かったるいなぁ」
そんなに嫌いな仕事ではないが、つい面倒くさいという風な言葉が漏れてしまう。
「俺も今からだわ」
義弘はそう言いながら荷物を置きにロッカールームに入っていった。
休憩の時間がもうすぐ終わるためか、おばさん達が雑談を止め忙しく動き始めた。
義弘は戻ってくるなり急かす様に肩を叩いた。振り返ると、義弘が見ろというように視線を投げた。その先を追うと休憩室の端の席に辿りついた。そこには同年代の女の子が一人で座っていた。おばさんばかりの仕事場なので、同年代の女の子がいるというのは珍しいことだ。
「最近、入った新人さんらしいよ。歳が結構、近いって話。かわいくない?名前はなんて言ったっけなぁ」
義弘のいつもの女の子チェックが始まった。
彼は仕事場で真新しい同年代の女の子を見つけると、頼みもしないのに報告してくる。それに対して、僕もコメントし、二人でかわいい、かわいくないと、どうでもいい議論で盛り上がり、休憩時間や勤務開始までの空き時間を潰しているのだった。
ソファーから彼女までは少し距離がある。そのため、はっきりと確認することはできないが、彼女は今までの義弘のチェックした女の子の中でも上位に入りそうだというのはわかった。上位と言っても、そもそも、女の子と呼べる年代の女性が少ない職場なわけだが。
「如月さんっていったかな……」
義弘が名前を思い出したところで仕事が始まる時間が迫って来たので義弘と共に自分のデスクへと向かった。
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