始まり

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『エレベーター』  仕事が終わり、タイムカードを再び押し、明日の一限の授業に備えるため、家路を急ぐ。  エレベータールームでエレベーターを待っていると、義弘が話していた例の女の子が入ってきた。  彼女はこちらの存在に気がつくと笑顔を作り軽く会釈をする。  先ほどは離れていて顔を確認することができなかったが、その時の予想は的中していた。  彼女は綺麗というよりは、かわいいという形容詞が似合うだろう。茶色を帯びた大きな瞳に雪のような白い肌。月並みな表現しかできないのが面目ないが、義弘のチェックの網にすぐにひっかかったのも頷けた。  そうこうしているうちに、エレベーターの扉がゆっくりと口を開ける。  彼女の会釈に、僕はぎこちない笑顔で会釈を返すと、エレベーターに乗り込み一階のボタンを押した。彼女もそれに続く。  僕はエレベーターの奥の隅に入った。彼女は扉の前に立ち、僕に背を向けている。当然会話があるわけもなく、四角い鉄の箱をエレベーター特有の沈黙が支配した。  いつもより、一階へ到着するのに時間がかかったように感じたのは気のせいだろう か。  慣性が体に重しをかけ、エレベーターは静かに動きを止めた。一階に到着したらしい。少し間を置き、その重い扉がゆっくりと開いた。それと同時に特有の沈黙は外気に流出し、いつの間にかなくなっていた。  僕は開のボタンを押したまま、彼女に先に降りるように促す。すると、彼女は頭を下げてエレベーターを降りて行った。それに続いて僕もエレベーターを降り、会社を後にした。  平凡な一日が終わる。かわいい女の子を見つけただけで、なにも変わらない一日だった。この時はそう思っていた。
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