19人が本棚に入れています
本棚に追加
『大学』
大学について愕然とした。大学までの道のりを見て、ある程度、予想はしていたものの、目の当たりにして、それを実感すると想像以上に衝撃的だった。抱えていた一抹の不安は確信へと変貌し、そして、その確信は恐怖へと変化していく。本当に誰もいない。
一限の大学は人が少ないとはいえ、全くいないというのは尋常ではない。
普段、必ず人がいるところに人がいないということが、こんなにも怖いことだとは考えもしなかった。
「誰か……誰かいますか」
僕は大学の敷地内に入り、声を出し呼びかける。
「誰かいますか」
その呼びかける声は次第に大きくなり、いつしか、迷子の子供が母親を探すような叫び声へと変わっていた。
必死で叫びながら構内を走り回るものの、虚しく構内に響き渡るだけだった。ここには誰もいない。
構内をはじからはじまで動き回り、疲れ果て、車へと戻ることにした。
いつも僕らの世界はいろいろな音に囲まれている。それを気に留めていないだけで。そう、夜中の町に出ると気づくだろう。その静かな世界の存在に。そして、如何に昼間の世界がいろいろな音に包まれているかを知る。
僕の今いる場所は夜中の町以上に静まり返っている。夜中の町が静かだと言っても、虫の声や鳥の声。野良猫の唸り声や犬の遠吠え。遠く聞こえるサイレンの音。完璧な無音ではない。だが、今、僕のいる場所はまさに無音だ。自分の発する音以外はなにも聞こえない。
「みんな、どこに行ったんだよ……」
僕はハンドルにうなだれ呟いた。無音の世界は恐怖と孤独で容赦なく僕を追い詰めていった。その圧力に気力を奪われ、脳は考えることを止め、そのまま、僕は動くことができなくなった。
最初のコメントを投稿しよう!