大江戸ラップバトル

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乱闘の中をよく通る声が響き、瞬間的に全員が動きを止めた。蒼汰が辺りを見回して声の主を探していると、人垣の一部がスッと割れて、その奥からEdgeが姿を現した。Gontaが駆け寄り「Edgeさん……、こいつが、こいつが俺のこと、うんこ野郎って」と鼻をすすりながら告げ口した。Gontaは既に自由に動ける状態なのだと、拘束されたままの蒼汰は気づいた。 ――なんで先に手を出したGontaが解放されていて、被害者の俺はまだ捕まってるんだ。 蒼汰は自由になろうと再度体を揺すったが、彼を押さえつける腕はびくともしなかった。なんとか首だけねじり、Gontaを睨みつけて叫んだ。 「おいGonta、てめえもラッパーなら、ラップで言い返せ。手を出すなんて、自分が負け犬だって認めたってことだ」 Gontaのずんぐりとした顔に再び怒りの色が浮かんだ。もう一度突っかかって来ようとしたが、周囲に制止されていた。と同時に蒼汰を捉える腕にも更に力が加わる。反射的に「ぐえっ」という声が漏れそうになったが、なんとかこらえた。 「おちつけ、二人とも」 Edgeが再度、声を張った。彼が両腕を上げ、指揮者のように水平に動かすと、蒼汰とGontaを取り囲んでいた仲間たちがスウっと離れていった。蒼汰は自由になったのを確認するように、両腕をグルグル回した。もみ合ったときに殴られた頭を撫でてみたが、いつものように五分刈りの短髪がジャリっと鳴るだけだった。 「OK。まずGonta、蒼汰の言うとおりだ。ディスられたらラップで言い返せ。手を上げるんじゃない。いいな?」 Edgeの言葉にGontaはしょげかえって「っす」とつぶやいた。心酔するEdgeに叱られて相当まいっている様子だ。蒼汰が心の中で「ざまあみろ」とほくそ笑んでいると、Edgeが今度は蒼汰を指さした。 「それから蒼汰。お前は最近、調子に乗りすぎだ」 「はあ?」
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