大江戸ラップバトル

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言葉の意図が分からず、大きな声が出てしまった。Edgeは淡々と続ける。 「確かにお前は腕を上げた。今や俺らの中でもトップレベルだ。だがな、最近のお前のラップは技術だけだ。ハートが籠もっていない。気づいているか、バトルの相手も観客も、お前のラップで不愉快な顔しかしてねえぞ」 思いがけないEdgeの言葉に頭がフリーズしてしまう。目の前のEgdeは歩き回りながら何か喋り続けているが、何も聞こえない。蒼汰はしばらく呆然と立ち尽くしていたが、次第に腹の底からフツフツと怒りが沸き上がってきた。 ――ハートがない? 不愉快? あんたがそう思っただけだろ? そんな適当なことで俺のラップを否定するな。 「Egdeさんがそう思うのは、俺より下手だからじゃないすか」 考えるより先に口が動いていた。Edgeの表情が凍りつく。とっさに脳が「やばい」という警告を発したが、蒼汰の口はそれを無視して勝手に動き続けた。 「Egdeさんのラップ、最近つまんねえですもん。マンネリっつうか、似たようなのばっかしで。俺、気づいたんすよ。Egdeさんって実はそんなに凄くねえなって。むしろ俺のほうが上手くねえ? Egdeさんは俺の才能にビビってんだろ。そうか嫉妬だ」 Edgeは静かに聞いていたが、蒼汰が口を閉じて一息ついたタイミングでゆっくりと口を開いた。 「OK蒼汰、お前の言いたいことはわかった。今日限りでお前をこのグループから追放する。二度と顔を見せるな」 低く重たい声だった。Egdeの宣言を聞いた仲間たちがおおっと歓声を上げた。 ――追放? 蒼汰はEgdeの言葉が理解できなかった。いや、理解したくなかった。笑い飛ばそうと「は? 追放って」とニヤつきながら仲間を振り返る。しかし目に入った仲間たちは、いずれも満面の笑みを浮かべ、隣の者と肩を叩きあって喜んでいた。誰かが「やった」とつぶやいたのも聞こえた。さすがに蒼汰も、自分がこのグループで鼻つまみ者なのだと思い知った。
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