魔法少女とマスコット

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◇ 「急にどうした、魔法少女やめたいなんて」  シャウトする少女をどうにかなだめすかして、マスコットは尋ねた。  少女は取り乱したことを恥じてか、それとも騒ぎ疲れたのか、しょんぼりと座っている。 「うん……、ごめんね、叫んだりして……」 「それは別にいいんだが……」  マスコットは心配そうに少女を見やった。  少女は三ヶ月ほど前から、魔法少女をやっている。  ある日、正体不明の謎の男にスカウトされた。  曰わく、『可愛いコスチュームを着て、悪の組織から町の平和を守るだけの簡単なお仕事です』。  それから彼女は、普段は普通の中学生として過ごし、有事の際は魔法少女となって悪と闘う日々を送っている。  魔法少女を始めて三ヶ月。彼女は一生懸命やってきた。  魔法少女の活躍というのは表には出ない、陽の当たらない仕事だ。  いくら少女ががんばって敵を退けても、誰も感謝しない。誰も彼女の存在を知らないからだ。  魔法少女はフィクションと都市伝説の住人。  あまり報われない役回りだと、マスコットは思っている。  魔法少女といったって、中身はごく普通のどこにでもいる女の子だ。弱音を吐くことも、涙をこぼすこともあった。  それでも「やめる」と言ったことはなかった。  これはもうのっぴきならない事情があるに違いない。
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