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Forget Me Not
ピピピピピピピピピピピ……。
ベッドサイドで目覚まし時計が鳴っている。午前六時。起床時間だ。
真っ白なシーツがかかったダブルベッドから手を伸ばし、けたたましく鳴り響く目覚ましを止めようと指先をさまよわせる。薄く開けた瞼の向こうには、カーテンを透かして射し込む爽やかな朝日。最近暖かくなってきたからだろうか、スズメが賑やかに鳴いている。いつもと変わらぬ、穏やかな朝。
「おはよう、姫子」
と、ようよう目覚まし時計のスイッチを押し込んだところで、後ろから寝ぼけた声がした。衣擦れの音を鳴らして振り向けば、ふかふかの枕に頭を半分沈めたまま、眠たそうな目を嬉しげに細めている夫の姿。
「おはよう、拓樹さん」
「あー。ほら、またさん付けで呼ぶ」
「ごめんごめん……朝からヘソ曲げないで、拓樹」
彼と一つ屋根の下で暮らし始めて早三ヶ月。未だに抜けない呼び方のクセを指摘された姫子は苦笑しながら、そっとベッドから抜け出した。
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