1 晩秋のすれ違い

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ところが、そんな真帆の視線が少し先のある人影を捉えて、微かに眉根を 曇らせた。 それは、先にある広い交差点の方へ高齢者用のカートを押して、ゆっくりと 歩いていく老婆の姿。 決してのんびりと街を散策しているようには見えないし、傘をさしている ことも手伝い、もしかしたらあれが、彼女の精一杯の歩調なのかもしれない とも思う。 しかし、もしも彼女が交差点を渡るつもりならば、間もなく変わるだろう 青信号の間に渡り切るのは難しそうだ。 いや、それどころか中央分離帯まで到着できるかも怪しい。 声、掛けたほうがいいかな。 ところが、小さな躊躇いを胸の内で呟いた時、ふわりと真帆の横を掠める ように人影が追い越した。 それに極自然と真帆の視線が流れ、その先に映ったのは、傘もささずに 大股に歩いて行く男性の後ろ姿。 そして間もなく、青信号に変わった交差点を渡り始めた老婆の少し後ろを 付き添うように、その青年もゆっくりと歩き始める。
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