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一瞬、老婆の何かを狙っているのかと、不穏なものが真帆の脳裏をかすめた。
しかし、それにしては、青年の行動は周囲を気にしていなさ過ぎるとも思う。
そして案の定、老婆の歩調では青信号の内に中央分離帯まで到着するのは
難しかったようだ。
程なく信号は点滅を始め、信号が赤に変わったが老婆と中央分離帯の間には、まだ数メートルほどの距離がある。
ところが、その時だった。
「あっ……」
思わず声を上げた真帆の目の前で、老婆の後ろを歩いていた青年が被っていたキャップを取り、深々と止まっている車の方にお辞儀をする。
そして、そのまま老婆に寄り添うように、ゆっくりと彼女の後ろを
歩いていく。
それから、ようやく老婆が中央分離帯へと到着すると同時に、再び青年は
車道へと深々と頭を下げた。
週末でもないせいか、クラクションを鳴らす不心得なドライバーは
いなかった。
それに少しだけホッとしながら、真帆も交差点に辿り着く。
知り合いだったのかな。
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