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ある冬の日のことです。
とある王国の辺境、『荒れ地の村』と人に呼ばれる集落の外れにある墓地に、村中の人間が集まっていました。
分厚い灰色の雲に太陽の光は阻まれ、昼間だというのに辺りは薄暗くかげっています。たった一筋の光さえ、赤茶けた大地の上には降りそそぎません。
「ほら、ザザ。お前も母さんに、最後のあいさつをしておいで」
促されて、ザザはゆっくりと棺の近くへ歩み寄りました。乾いた風が吹き、藁色の髪をふわと揺らします。
灰色の瞳でのぞきこんだ木の箱の中には、純白の花たちに包みこまれるようにして、ザザの母親――ジョゼが横たわっています。
ザザの目には、母がおだやかな眠りの中にいるみたいに見えました。そう、今にもぱちりとその目が開いて、やさしい薄茶色の瞳がザザに向けられ、その口もとに温かな笑みが浮かぶ――。
そこまで考えて、ザザは力なくうつむきました。
(……ちがう、ちがうんだ。母さんは死んでしまった。おれを置いて、いなくなってしまった)
涙は、出ませんでした。
一ヶ月前、母が倒れたその時に、ザザの心には木のうろのように空っぽの部分ができてしまったのです。以来、涙になるはずのものはその穴の底にたぷたぷとたまっていくばっかりで、ザザはちっとも泣くことができずにいるのでした。
胸がはりさけそうなほど辛いのに、苦しいのに、涙が出ない。
そのことが、ザザにはひどく悲しく、さみしく感じられました。
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