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本好きの人間にとって、誤字を発見するのは一種の楽しみだ。
重版になるとその誤字は修正されてしまうので、初版本の誤字は特に希少価値が高い。
それが自分の好きな作家、好きな出版社のものなら、なおさらラッキーだ。
作家も校閲部も誤字脱字には細心の注意を払っているにも関わらず、いじらしくも何度となくその目をかいくぐって世に出てきたのだ。
それを発見したときの喜びは至福としか言い表しようがない。その誤字をそっとシャーペンで囲んだ日には、一日中楽しい。
そんな偏った本への愛を仕事にするにはどうしたらいいか。
考えるまでもなく斎藤ちひろは片っ端から出版社の門を叩き、ここ――幻泉社校閲部に見事就職を果たして三年目になる。大卒で入社したので、今年で二十五歳だ。
幻泉社は、ほかの大手出版社と同じく、あらゆる書籍を発売しているマンモス社だ。
文芸書籍はもちろんのこと、ライトノベルやライト文芸、ファッション誌や週刊誌、漫画雑誌にコミックス、幼児向け雑誌と、その形態は多岐に渡っていて、アニメやドラマ、映画の原作となる作品も多く出している。
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