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第一幕 : 表と裏
「だとしたらお前はどうする、逃げるか?」
「逃げたりなんかしないわ」
腕を組みながら私を見つめる鬼神様からは何故か逃げて欲しいという思いが強く伝わって来たけれど、それでも私は逃げない選択を選んだ。
「私は生贄に選ばれたから、鬼神様に食されなければならないの」
それを聞いて小さな溜め息を吐いた彼はゆっくりと面を外した。
その顔は鬼神だと信じる事が出来ない程に美しく、透き通る紅の瞳は白い肌によく映えた。
噂に聞いていた鬼の姿とはかけ離れたその風貌は、冷酷そうであるのに何処か優しさを感じる。
切れ長の目に、瞳に見つめられ思わず胸が高鳴った。
「何故ここに住まう村の民は、毎年のように此方に人間を寄越してくるのだ」
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