きっかけを

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「常に気を張っているがゆえに、人を遠ざけているわけか」 「そう。秘密が多ければ、みんなが想像で補ってくれるからね」 「『秘すれば花』ということなんだな。いざ話してみると、ちょっと印象が変わるよ。親しみやすい」 「ありがとうと言っておくべきかしら。親しみやすいのも困るのよね」 「近寄りがたい雰囲気も捨てがたいが、親しみやすい雰囲気も素敵だと思う」 俺が妙に真面目にそんなことを言ったせいか、彼女は目をそらして鼻で笑うのだ。 「あなた、なかなか勇気があるし、意思も強いほうね。このクラスで3人目よ。私と日常会話にたどり着けたのわ。男子では初ね」 男子では初か。やったぜ!と心の中でガッツポーズをとったのは言うまでもない。 「男子で初とは嬉しいよ。初記念に幻覚の秘密を教えてくれないか?」 ああ、調子にのってしまったのだ、俺は。彼女が、やや迷惑そうな顔をしたのを見逃さなかったのだ、俺は。 「人は見たいものを見るの。私は暗示をかけているだけ。石を投げたら、あなたには小人に見えて、葉っぱを吹き飛ばしたら、あなたにはユニコーンに見えた。太陽の光やちょっとした気温や湿度の変化が異様なものに感じられるのも、全てあなた自身の想像なのよ」 そういうことなのか。にわかに信じがたいが、彼女の言うことは何でも信じたくなる。
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