気がついたら

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気がついたら

はっと気がついたら、教室に俺1人。 放課後の教室で、俺はいつのまにか1人で窓辺の椅子に向かって話しかけていたのだ。 いつからだ?さっきまで、確かに彼女はこの窓辺の椅子に座っていたはずなのだが。 彼女との会話すらも、幻だったのか? 遠くの教室から吹奏楽部の演奏が聞こえる。ドビュッシーの『グラドゥス・アド・パルナッスム博士』だ。 雲をつかむようなクラリネットの旋律が遠くの教室から響いてくる。ドビュッシーのメロディなら、5月の晴れた日の午後の教室にはぴったりだ。特にあっけにとられて、放心している俺の心にはよく響く。 言われてみれば確かに、彼女が言ったように葉っぱや石ころが教室中に転がっている。彼女が座っていた窓辺の椅子には、ご丁寧にマトリョーシカが置いてある。何ということだ、俺はマトリョーシカ相手にずっとしゃべっていたというのか。 「おい佐藤。なぜ教室で一人たたずんでいるんだ。早く帰れ。怪しい行動をとるイカレ生徒の汚名を着せられたくないのならばな」 教室前を通りがかった数学教師にこう言われては、なすすべもない。俺は何事もなかったかのように教室を後にした。
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