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容姿端麗、才色兼備とは、彼女の為にある言葉なのだろう。
クラスメイトの幻崎朧だ。幻の埼と書いて「げんざき」と読む苗字からして神秘的だ。幻が苗字に入ることなんて、普通ないだろう。俺の苗字は平凡極まりないから、それだけで羨ましい。しかも名前は朧月夜の朧だ。「ゲンザキオボロ」とカタカナ表記だったとしてもカッコいい。佐藤太郎の俺とは大違いだ。
幻崎は、入学式の時から目立っていた際立つ美人。長い黒髪、長い指、白い肌が透きとおるように美しい。そして、常にヘッドフォンをしている。
心なしか、常に光り輝いているように見える。春の陽気のせいか、青春の日々の幻覚か。ともあれ、一種独特の美しさを持つ彼女は、平凡な中堅私立高校には珍しいほどの存在だ。
完全に浮いている。心なしか常に体が浮いているようにすら見える。それほど、別格のオーラを放ち、次元が違う存在のように感じるのだ。
「成績はオール5らしい」
「家は超金持ちという噂」
彼女をとりまく噂の数々。真相は定かではない。男も女も、彼女には気軽に話しかけられないから、噂話ばかりが独り歩きする。そして噂はこれだけではない。
「ヘッドフォンの両側に戦車がついていて、主砲が常に周囲の人を狙ってる」
「彼女の周囲を小人が全速力で走り回っている」
「彼女に話しかけると小さなユニコーンが出てくる」
彼女に関しては、こんな意味不明な噂まであるのだ。戦車?小人?ユニコーン?どういう設定だ。彼女がいくら神秘的な雰囲気だからって、さすがにそんな訳の分からないことが起こるはずもないだろう。まさかそんな。
しかし。彼女なら、何かそういった超常現象を身にまとってしまうような気もしてしまう。そう思わせるほど、彼女は神秘的だからだ。
なにせ、休み時間は常にどこかに消え、姿を見ない。登下校時もふらっと現れ、ふらっと消える。どこから来てどこへ帰るのかもよく分からない。ミステリアスとは彼女の為にある言葉なのだろう。
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