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「マサキ、今日は良いお天気よ」私はカーテンを引いて窓を開けた。
ベッドの上の彼は、まだ眠ったままだ。朝の日差しは柔らかく、春の風が心地よかった。
私はパンとコーヒーを彼の枕元に運んだ。私は紅茶派なので、朝はいつも2杯分作る。
「美味しいね」
彼と朝のひと時だ。食べ終えた後、私は彼の顔をしばらく眺めた。そして冷めたコーヒーとパンを片付けて部屋の模様替えだ。
「マサキはブルーが好きだもんね」カーテンを水色に、カーペットを濃い目のブルーにした。彼はまだ眠っている。私は彼の枕元に腰掛けた。
お医者さんは、いつ意識が回復するか分からないと言う。「大丈夫だからね。マサキの面倒は私がずっと見るからね」私は彼の顔を覗き込みながら、ゆっくりと微笑んだ。
そして私の頬に熱いものがこぼれ落ちた。
「先生!ミユキが涙を!」僕は驚いた。
事故以来、彼女は意識も無く、寝たきりの状態が続いていたのだ。
先生は「きっとミユキさんは夢を見ているんだな。記憶は少し曖昧かもしれないが、良い傾向かもしれないよ」と何度も頷いた。
食卓のテーブルクロスをブルーに替えた。彼女が好きな色だ。僕がコーヒーを入れて彼女に差し出す。僕は紅茶を飲みながら、いつもの様に話すんだ。何もなかった昔の様に。
窓から爽やかな春の風が、彼女の横顔を撫でて行く。そこには微笑むミユキが目の前にいるのだ。
僕は信じている。いつか彼女が目覚める事を。
終わり
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