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プロローグ
父が亡くなってから、家の中は喧嘩ばかりだった。土日になると、一日中、母と祖父母の言い争いが聞こえてきた。
僕は小学校の低学年だった。自分の部屋に閉じこもってたけど、それでも声は聞こえてくる。
僕は宿題も手につかず、本を読む気にもならなかった。罵り合いを聞いていると、知らないうちに涙が浮かんだ。
幼稚園、小学校と、僕は『泣き虫』と呼ばれてた。たぶんそうだったんだ。
嬉しかったこと。たいてい一歳上の高城寺サキ(こうじょうじさき)ちゃんが尋ねてきてくれることだった。
ブザー音が聞こえると、僕は玄関に飛んで行った。
サキちゃんが、やさしい顔で、ニコニコ笑って立っていた。
「洋ちゃん。わたしんちで遊ぼう!」
僕の名前は松山洋介(まつやまようすけ)。
サキちゃんったら、僕がちっちゃい時から「洋ちゃん」って呼んでいた。
僕はサキちゃんからそう呼ばれるのが、とっても嬉しかったんだ。
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