ぼくらにふいた風は

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ぼくらにふいた風は

じゃあ帰るねと哲が立ち上がったから、タマコとミクも立ち上がった。ドアが閉まる音を確認してからだいたい2分後に窓から顔を出した。8階から見下ろす大通りではヘッドライトとブレーキランプがゆったりとした二つの川のように流れていた。今まで一緒にいた三人が小さく歩道にいる。哲がミクとなにかを話していて、タマコはそれを聞いているようだった。少しして三人で手を振り合い、タマコとミクは左へ、哲は右に消えていった。仲間を見送るこの状況じゃなくても、僕はもともとここからの景色をぼーっと見ていることが多い。眼下の景色は僕たちを育ててくれた街だ。嫌いな訳はない。なによりここで風を感じるのが好きだ。気持ちがいい‥‥あれっ? タマコとミクが左から戻ってきた。小走りに。なんだかキャッキャッはしゃいでいるような。 「なに? どうしたの? なにか忘れた?」 「別に。戻ってきただけだよ」 「哲は?」 「大丈夫。哲があの歩道橋の先を曲がって消えるまで隠れてたから」 「て、いうか、そういう問題じゃないでしょ。哲はミクの彼氏でしょ。まずいでしょ」 「あんまり関係ないんじゃないの」 「なに言ってんの、あるでしょ」 「もともと、昔から四人でごちゃごちゃでワイワイって感じだったしさ、別に三人でもなんでも、今さら関係ないよ」 タマコはヘラヘラしながらミクの言葉を聞いている。 「それに哲の家、門限あって厳しいしさ。自由じゃないっていうか」 「しょうがない」 「なんとなくの空気で付き合ったっていうか‥‥」 「‥‥おいおい」 「あんたと付き合う」 「へっ?」 「理由もあるのよ」 「理由?」 じゃあ向こうはわたしにまかせてと言うと、残っていたソーダを飲み干しタマコは部屋から出ていった。窓から入った風がミクの髪を少しだけクシャっとした。 「哲と付き合いだしてからこの二ヶ月半の間にね」 「‥‥うん」 「哲はわたしの目を102回見たの」 「へぇーそうなんだ」 「あんたはね」 「俺っ?」 「3246回見てくれたの。だから‥‥」 ‥‥また風が入ってきた。 おわり
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