54人が本棚に入れています
本棚に追加
リビングに戻ると、妻は録画していた【夏と恋】の第1話を見返していた。
『アヤ…俺と付き合ってくれ』
『もちろんよ、ユウスケ』
アヤ役の少しぎこちない演技が懐かしい。
恋人想いの理想的な女性として描かれたアヤは、この後、親友のナツコにユウスケを奪われる。
確か、決定的だったのは第3話で、ユウスケがナツコの家に押しかけて一線を越えた時だろう。
体の関係から、一気にユウスケはナツコに落ちた。
「ほんっと、ユウスケってサイテーな男だよな」
西も食い入るようにテレビ画面を見る。
俺はそこまでユウスケ役を嫌いになれないが、アヤ役が少し可哀想かと思う。
「でも、ユウスケって、きっとアヤにも未練があるのよ。昨日の10話で別れ話を切り出した時、結局ユウスケはアヤと別れなかったでしょう?」
そんな展開だったのかと、先にネタバレを聞いてしまってモヤモヤする。
「俺だったら絶対にアヤを取るよ。こんな理想的な女を放っておいて、体の相性がいいナツコの方に転ぶなんてバカ男だろ」
「体の相性も、大事だと思うけどなぁ…」
心の声が出ていたらしく、西にケツを思いっきり叩かれた。
「っ、いってぇ、アホ!」
「アホはどっちだ、バカ香月」
いきなり名前で呼ばれてうろたえる。
大抵、西は2人きりの時しか俺を名前で呼ばない。
普段は周りに合わせて「かっちゃん」と呼んでくる。
「西さぁ、ケツ叩くのはいいけど、もうちょい加減ってものを…」
叩かれ慣れてしまったケツを労わり、リビングを出て玄関に向かう。
_
最初のコメントを投稿しよう!